本コーナーは、恐慌の現実を前に人生転落を余儀なくされた実話に基づくケーススタディある。
第5話.夜逃げしかない・・・
過去に数百人の人たちの企業への職業紹介を行ってきたF氏(38歳男性)。
転職のプロとして、企業人事への対応策は万全と自負していたF氏。ハローワークでの120社の不採用通知、ならびにかつての同業仲間からの「紹介」もアテにできない現状は自らの「転職のプロ」としてのプライドを打ち砕いた。
と同時に、転職のプロでも再就職が容易に叶わない現実に、
「もはやこの国で仕事をつかむのは容易ではない。35歳以上なら大企業でのマネジメント経験でもなければ、正社員はほとんど絶望的だ。30代後半では昼間のパートすら見つからないのだから・・・」
F氏は、心の中ではもう、「転職のプロ」としての看板を下ろし、「もう年収300万円以上の生活は難しい」と自分に言い聞かせた。
以前の深夜バイトを辞めたため、11万円の月収がなくなった彼は最近、2万8000円の郊外の築43年のアパートに引っ越し、新聞購読もやめ、毎月会費を支払っていたスポーツセンターも解約した。
ハローワークのコンサルタントから、「過去の人材紹介の経験を生かすために、資格でも取ったらどうか?」とも薦められたが、そのための養成講座の費用が30万円以上と知り、それも断念した。
昨年末から、かつての人材サービスの知り合いのツテを頼りに派遣登録をし、週に3日の自動車の製造工場で働いている。が、今年に入り、タイからの部品輸入が滞るなどの影響もあり、工場が減産態勢に。
現在は会社から、「自宅待機」を命じられている。
登録型の派遣就労では、稼動がなければ一円にもならない。
2万8000円の家賃の支払いが2か月分も遅れた彼にはいま、大家からの「退去命令」が出ている。
もはや一刻の猶予もない。
「寮完備での住み込み可」な求人案件を漁るF氏。工場の稼動再会の見込みが立たない中、アパートからの立ち退き日が次第に迫る。
現在の工場の経営母体会社からは入社時、20万円の前借りもしている。
夜逃げ――そんな衝動に駆られた。「どうせ立ち退かなければならないのなら・・・」。
都心で氷点下を記録したその日、彼は住みなれた町から姿を消した――。
(この項、終わり)




